BEATMAKS (vol.8/SEP. 20. 1985) p14-p17


SHEENA & THE ROKKETS
TO THE ROCK`N`ROLL PLANET!


シーナ&ザ・ロケットをはじめて観た。

●仁科正彦


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 浅田孟、川嶋一秀午後4時楽屋入り。それに遅れること1時間弱、鮎川誠とシーナ到着。
 楽屋前で初めて見た鮎川誠その人は、想像していたほど大きくなかったが、やっぱり、大きな人だ。 それに何といっても、圧倒的な存在感。忙しそうに行きかうスタッフ達、次々と訪れる訪問客、 カーテンのすき間からチラッと見える楽屋の中、そこには重そうな黒のギター・ケース。 そんな雑然混沌とした風景の中で、彼だけが浮かんで見える。
 もう開場まであまり時間もないけど、それでもシーナ&ロケットはリハーサルを始めた。 開演予定を20分程過ぎたとき、ロケットの3人が現れた。ショウの幕開けはアルバム「ロケット・サイズ」 から"Rock Is All Right"。客席から向かって左に濃茶のプレッション・ベースを抱えた浅田孟。中央には 極くシンプルなドラム・セット、その向こうに川嶋一秀。右に鮎川誠。もちろん黒のギブソン・レス・ポール、いつもの65年製だろうな。
 当日券は完璧ソールド・アウトで、当然立見席も満杯だ。この日のためにメいっぱいキメてきた少年もいれば、まったく普段着の女の子もいる。
 すでにステージ下は混乱状態だ。イキオイにつれられて前に駆け出したファンが警備員に引き戻される。そのスキを見てまた何人かのファンが飛び出す。
 鮎川誠のアクションは緻密に計算されたものではない。曲の紹介も出たとこ勝負で、ときにたどたどしかったりする。しかしそれが彼の本当に正直な、ナチュラルな気持から 来るものだということを知っているファンにとってはとびきりカッコいいアクションであり、MCなのだ。
 彼はギタリストだから、ウタもギター・プレイに似ている。サビで「オオウッ!」とウタえば、それはギターの14フレットあたりを思いきりチョーキングしている みたいだし、その直後の「イエィ!」は6本の弦全部に思いきりダウン・ストロークをカマすみたい、そんな感じのボーカルなのだ。 でも間奏になるとやっぱりガゼン顔に余裕が出て来るんだよな。

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 ステージも中半戦へ突入しようというとき、川嶋がいきなり聴き覚えのあるリズム・パターンを刻み出す。 続いてマコちゃんがリズム部隊の2人を紹介。会場を埋め尽くしたファンの1人1人が自分の予感に確信を持ち始める。 そう、シーナの登場。 "Hello!"と飛び出したシーナは青のショート・パンツ・ルックに緑の上着。 もちろんシーナ・ヘア。曲は"Sweet Inspiration"。
 今の今まで圧倒的な存在感を持っていたマコちゃんだったが、このロックン・ロール・クイーンの登場に、一瞬にしてバック・バンドの一ギタリストになってしまったかのようだ。
 "Cry Cry Cry" "今夜はたっぷり" と曲は続く。ところがその1曲1曲ごとに彼女のイメージがどんどん変わってゆくのには驚いた。 「この思いがあなたに届くまで」と、まるで瞳の中に星でも持っているような夢見る少女が歌っていたかと思えば、次の曲では艶気ムラムラの妖女になり、ガキどものノーテンをかきまわし挑発にかかる。 まさにワカマツナデシコ七変化とはこのことだ。
 この女王様が城に戻ればマリーゴールドの3人の王女のために朝食を作ってやってるいることは(例えがチョイと古いかナ)、もう69、874回ぐらい言われてきたことだろうけど、イヤハヤ信じられません。

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 浅田孟があんなにヤセた人だったとはついぞ思わなかった。それでもサスが、肩から腕にかけてはガッシリしているようだ。その浅田のベースと川嶋のドラムのコンビネイションが生みだすビートの強烈さと言ったら、 掛け値なし、それだけで充分楽しめるほどだ。
 もしも「リズム隊人気投票」というのがあったら、真っ先に「浅田&川嶋」と書こう、そう思ったくらいだ。 「リンコ&新井田」(RCサクセション)、「加部&吉良」(ピンク・クラウド)というのも各々捨て難いものがあるが…やっぱりトドメはこのコンビだ。
 博多のドラマー達が特に多用する叩き方にハイ・アットの代わりにフロア・タムで8ビートを刻むというのがあるけれど、もしかしたら川嶋一秀が元祖なのかもしれない。
 このコンサートの間じゅう俺の目は川嶋の手首スナッフと浅田の右手の指、マコちゃんのアクション、それにシーナの揺れる腰、ほとんどこの4つに釘付けになっていたと言ってもいい。
 アンコール曲「この道」が終っても、「このままで帰ってたまるか!」という、あきらめの悪い(?)客達が再度アンコールを求める。一切ギミックなし純度100%ボルテージ度300%のライブはこうして終った。
 余談だが、俺には絶対観ておきたいライブ・ステージというのがいくつかある。内藤陳じゃないが「これを観ずに死ねるか」というヤツだ。マーク・ボランは俺が観る前に死んじまったからしょうがない。シーナ&ロケットは そのうちのひとつで、これまで何回もチャンスを逃したが、今回やっと夢がかなえられたというワケだ。
 あれからかなり日にちも経つが、原稿を書こうとすると、すぐさまあのステージのマブシい照明を思い出してしまった。100円シャープ・ペンシルが原稿用紙の上で浮ついてしょうがない。
 なに、行けばわかる。



鮎川誠インタビュー

●田原一晃


 「うん! もうおかげで。リハーサルの時マネージャーに『練習不足やないですか?』やらおこられよったけど(笑)、お客さんのおかげで、もう。」
 マコちゃんはウレシそうだった。
 シーナ&ロケットがデビューして7年。今回が初めての全国ツアーというのは何とも意外だったが、地元のファンにとってなによりなのはその初日が福岡で行なわれたことだろう。 そしてその初日ライブは立見席までギッシリ詰めこみ、まさにツアーの幕開けを飾るにふさわしいライブだった。
 第3号でシーナ、第4号で浅田孟&川嶋一秀、そして今回いよいよ鮎川誠の番。
 コンサート終了後ということもあり、マネージャー氏からいただいた時間はそう長くはなかったけれど、それでもマコちゃんは取材に快く応じてくれた。
 長身を祈るようにしてソファに腰かけた彼に「もうタバコはやめられたんですか?」と尋ねると、「いやあ、この前ちょっと禁煙したんやけど半日しかもたんやった」 と笑いながら、ポケットから赤いマルコポロの箱を取り出した。


レコード出した以上、聴いて楽しんでほしいね。

 まず新作「メイン・ソングス」について。
前作「ニュー・ヒッピーズ」リリースから半年あまりで発表されたこのアルバムでは、シーナのボーカルが前面的にフィーチャーされており 「ああ、やっぱりシナロケはウタだなあ」と、なんだか聴いてて楽しくなってくる。マコちゃんシーナがそれぞれソロ・アルバムを出し、 シーナ抜きのロケットだけで、作られた「ロケット・サイズ」を経て「ヒッピーズ」そして「ソングス」。 長い旅に出ていたシーナ&ロケットがようやく帰って来たような、そんな気もする。
「スポット・ライトをいっぺんどこかに当ててみようって思って。もちろん今回に限ったことじゃないけど、エルボンの "Sheena and Rokkets#1"を初めて吹き込んだ時からぼくたちの自慢できるところは『歌がいいじェ』『バックの演奏がしゃれとうじェ』 そんなことをずっとアピールしてきたつもりなんやけど。ひとつは今回わかりやすいのを作ろうかな、と思って。それでアルバムのタイトルも 「メイン・ソングス」にして、10曲ともバーン! とボーカル前面に出して。スタート・ラインに戻った……いつもいつもスタート・ラインなんやけどね、 やっぱりぼくら、レコード出した以上は聴いて欲しいけん。ターン・テーブルにそのレコードのせて。」
「ちょっと口が悪いかも知れんけど、今ロックの『値打ち』がゆわかってない人がロックをあれこれ評論するのが歯がゆかったりしてさ。 『シーナが5曲、鮎川が7曲歌った』とかね、そげなこと数えりゃわかる。ぼくらは命賭けて1枚のレコード作るんやけさ、 せめて『このコード進行は…』とか評論家の人が音楽そのものを楽しみながら、ぼくらのことを面白く紹介してくれればいいんやけど。 もうそんなんない時代やけんさ。ただレコード会社の受け売りのことばで『今回はポップで歯切れが良くなった』とかさ、全然ディグ(dig=掘り下げる) もされんし…。」
「以前は評論家に評論されるちゅうんはほんとドキドキするもんやったちゃ。ああ、どういうやろか、どう言われるやろうかちゅうて。 普通の人の意見ちゅうのも気になったけど、それだけ一目も二目も置いとったっちゃんね。 でも最近は、『じゃお前歌ってみろ。ギター弾けんやんけ、曲作りきる?』そういうことばしか出て来ん。ヒドイのが多い。」
「特にね、日本のバンドをどうしてみんなあんなに悪く言うのかねえ。向うのは英語やん。日本のバンドは日本語で書きよるやん。外国のマネしよるバンドばっかりやないけんね、 ほんと言うて。自分たちのことばを操って、何かを表現して、電気ギターを持ち出して、レコーディングして…誰も外国のマネやらしよらんのに評論家だけはいつまでも外国のを持ち上げて。 シーナが怒るね。コイツら何人や!? ちゅうて。」
「バンドのレースを見て欲しいんじゃない。ネズミ競争見物するんやなくて、バンドの連中はプロである以上、みんな音楽聴いてもらいとうてレコード出しよるでしょ。『今までの売り上げを抜いたぞ!』とか、 そんなんを楽しみにしている人も、まあいるんだろうけど、ぼくはあんまり信じられんちゃね。」
「やっぱお気に入りのバンド見つけて、ほんとに新しいニュー・カマーを見つけて、ギタリストの名前を覚えたり、どういうルーツ、どういうレパートリーを持っとうか、 曲は誰が書きようとかいな? メンバーかな? それともソング・ライター・チームの提供する曲を演りよう? とか…ロック聴きながらそういうのがぼくのアナザー・サイドの楽しみやったし、自分たちのレコードもそげんして 楽しんでくれる人に聴いて欲しいなって思っとう。」

誰かに今、レコードの溝に刻まれている音楽そのもの、音そのものを正直に楽しむといった傾向が薄れつつあるのは否定できない。 スピーカーから出て来る音よりも、それを取り巻く状況−つまりヒット・チャート、アーティスト(バンド)の位置関係、その他もろもろのあらゆる情報−をぼくたちは知り過ぎてしまったかもしれない。 ボーカリストがその喉で、 ギタリストがそのギターで、感情に直接語りかけてこようとするのを、自然とぼくたちは感じられないカラダになってはいないか?
「一部ではそういう楽しみ方しか知らんちゅう人も多いと思うね。ロックをただの感情として処理する、ベスト・テンとして処理する…。 ギターイッパツギャーンて弾いたのがカッコよかったねとか、そういうのは目に見えんちゅうか、数字にとか絶対できんやない? そこにロックの値打ちがあると思うっちゃ。 やっぱロックちゅうんは生きざま、身のこなし、センスとか、スプリットに裏打ちされた上でずっと続いてきたもんと思う。 アイデアとか技術とか金をかけたかかけんかで続いてきたもんじゃないとぼくは思うっちゃ。 今日浅田孟が『ロック魂!』って言よったけど、そのロック魂がぼくを駆り立てたし、エディ・コクラン、彼よりも20も若いストレイ・キャッツの連中がそれを見つけてきて演りようし、 そういうエネルギーがね、ロック魂、スピリットと思うっちゃん。そんなのが好きやん、ぼくは。」
「俺達もポピュラーになりたいね。ヒップでポップ。ポップスちゅうのはポピュラーちゅうことやから。たくさんの人が『好きっ』ちゅうようなさ。 名前を知ってくれて曲を知ってくれて、支持してくれて。ヒップな曲がポピュラーになったら最高やね。 ヒップな、ちゅうのは尻がチョッと動く感じ(笑)。」


ロックしよる人いうんはゼイタクな貧乏人ちゃ。

「ロックはマネーだってぼくはよく思うっちゃね。」
「それではビジネスとしてのロックにどう関わっていますか?」と尋ねると、返って来た答えがこれだった。
「金が駆り立てるんだと思うよ。お金を稼ぎたいけんみんなロックすると思うよ。『あの人はエライ!』って言われるためにロックするヤツはバカと思うね。 あの人は貧乏やけど家で頑張ってレコード聴きよるゼとか、そんなんじゃないと思う。ロック・イズ・マネーと思う、昔から。タダで儲けたとかさ、 レコード会社からちょびっと金ふんだくるとかさ、そんなこと全然思わんね。バスッとレコード会社儲けて、自分たちもガバッととりたい。 全部金でカタつけたい、そういうビジネス上の関係はね。だけん俺、ギターのモニターとかあんまり好かんちゃ。タダでギターもらえるちゅうて喜ぶ人も おろうけど、タダでもろうたらコワイけんさ。気に入ったヤツ、自分の金で買うほうがよかもん。」
「金はいるよ。ロックは金がいるよォ。だけんゼイタクな貧乏人て思うちゃ、ロックしよる人は。普通のゼイタクとは違うけどね。」

彼に「ロックのためならなんでもする」というイメージを以前から抱いていた僕は、一瞬アゼンとなった。いや確かに彼は身心ともに正真正銘、筋金入のロッカーだ。 だけど好きなだけじゃミュージシャン、バンド・マンは務まらない。そう、「バスッと売って、ガバッと儲け」なければ始まらないのだ。まさか彼が「ロック魂」は鈍らせても金のことは忘れない、 なんてことは毛頭ないだろう。でもビジネスはビジネスとしてケジメをつける。これは彼に限らずロック・スターとして成功した者なら誰だってそうであったし、また当然のことだし、 ぼくは今さらのように思った。

ところでこうやってロックの話をしている時の鮎川誠の目は本当にキラキラしてる。 なんともクサい表現でどうもカッコがつかないけれど、彼と一度でも話をしたことのある人ならわかってもらえると思う。 まるでこっちが催眠術にでもかかってしまいそうな目だ。
そして彼の言葉の豊富さ。ステージでもどこでも彼が使うことばのニュアンスにはうなってしまう。 ホラ、例えばライブ途中のMCで、ちょっと恥ずかしそうに、でも普通なかなか使われないようなイカしたことばでメンバーや曲の紹介をする、アレ。 すると客席はまたまた盛り上がるんだ。
「う〜ん、そげなことはあんまり考えたことない。映画? あんまり見ん。本もそげん読まんね。いつもかつも同じことばっか言うとるのも好かんちゃ。……でも時たま自分のインタビュー読み返しよったら、 あっ、この言い方いいやん! いうのもたまにはあるけど。あんまり自分でそんなん考えたことないですね。」
結局ギターのアドリブ・プレイに似てるっていうことだろうか。
「そうですね。ほんとそうちゃ。でもギターのアドリブは…もうチョイ頑張らないかん(笑)。」


ステージが自分の予定通りに進むなんて…。

「ぼくもレコーディングで2回弾けんことをよくやるっちゃね。『今夜たっぷり』でもあとでビデオ作るでしょ。そしたら全然、何回聴いたちゃどう弾きよるかわからんフレーズとかあって。 だいたい使うノート(=音痴)ちゅうのはクセなんかで決まっとるんやけど、微妙なところで『こげな音どうやって出したとかいな』とかある。なかなか画面と合わせるんが大変です(笑)。」
「例えばこんなのはぼくのあこがれやけど、ジョージ・ハリスンが"My Sweet Lord"のリフで(と口ずさむ)ちょっとタメたりして、絶対そう弾くでしょ、決ったリフを。ああいうのいいね! ジミ・ヘンドリックスでも誰でもそうなんやけど、どこでやったライブ聴いてもキメのフレーズが、やっぱりある。 俺も意外とあることはあるんやけど、もうチョイなんかフレーズなんよね。」

前述したように、シーナ&ロケット福岡ライブは圧倒的な盛り上がりを見せ幕を閉じた。
85年上半期、ぼくが見たギグの中でもクオリティ、ボルテージともに最高級のステージだったように思う。
それはやはりステージにスリルという空気−どこで何が起こるかわからない−が終始充満していたからだ。 ぼくも含めて客席のファンはマコちゃんが「ありがとう、気をつけて帰って下さい!」と言うまでその空気にどっぷり酔いっぱなしだった。
アーティスト、バンドに関してこれだけ情報があふれかえる中、全くスリルもヘッタクレもない、まるきり予想通りのステージを行なうバンドも少なくない。 客のほうにも「ここで腕をふり上げて、イェーと叫ぶんだぞ」などと「暗黙の了解」(?)がされている。 これじゃまったく儀式じゃないか!
「いかんね! そういうのオモシロない思うとるけん、お客さんああしてくれるっちゃないかな。 …今日もマネージャーと話したことなんやけど、予定調和ちゅうか、自分の予定通りにいくことがなんでオモシロいんかいな、いうて。ねえ?  もうバンドも練習してきたことをそのままやる、お客さんもさ、右も左も同じことをやっとる、ちゅうようなのは、オモシロないやん。 ロックからほど遠いことやと思うね。ロックバンドの特権だと思うっちゃん、無計画でいけるちゅうもんは。コンピュータのリズムに合わせる、 もう曲の最初から最後までビッシリ計画されたものも、まあ1回目は面白いけど、2回目は飽くね。 エレキは飽かんけんね。その瞬間瞬間に道を決められるやん、『よし1曲目あれいこう!』いうて。 浅田と川嶋に『ちょっとここ、こげん変えよう』て言やあ、すぐ変えれるし。自由ちゃね、ロックは。」

「自由ちゃね、ロックは」ということばを最後に宇宙船の船長は操作室へと戻って行った。 マルボロの吸い殻が2本、灰皿に残っている。


(c)BEATMAKS


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