MICK JAGGAR


 MICK JAGGAR/ミック・ジャガー

 ニューヨークのクラブ(TRAMPS)で、ミック・ジャガーと偶然一緒になった。でも、サイン下さいっていいきらんやった。ローウェル・ファルソンってすごいブルースマンがやってて、ミック・ジャガーも一生懸命聴いてる。わあ、ミックだぜとか言って席を立つ人は誰もおらん、ローウェル・ファルソンに敬意表して。ファンはミックが来てることを知ってて嬉しそうにしてる。ローウェル・ファルソン観るだけでも最高なのに、そこにミックがおるちゅうんで、みんないい時間といい場所つくっとる。

 でも本当は、ぼくはあなたの大ファンです、て言いたい。ゆうとったら、何て嬉しいだろう、話し出したら1時間だってぼくの話ばかりしてしまうかもしらんちぐらいに頭ん中では考えてた。

 ストーンズにまだマネージャーがつく前のアマチュアの頃に、ジョルジオ・ゴメルスキーちゅうロシア貴族のなれの果ての道楽者みたいな人が、ストーンズの面倒をみてたって、ライナーに書いてあるけれども、その酔っぱらいのジョルジオ(トランプスの常連)がクラブにいて、ミック・ジャガーがポーンと肩たたいて、ジョルジオが、おおー、ちゆうて話すのを、ぼくは横で見てた。

 ただ唯一ラッキーボーイやったのが門番、ニューヨークのライブハウスに必ずいるドアマンみたいな人。その人が足にギブスはめとって、動けんまま椅子に座っとって、ミック、サイン頼むよとかゆうたら、そのギブスにサインしてた。…うん、平気な感じで、あれすごくよかった。

 ミックとぼくが一緒に写ってる写真持ってるけど、ボブ・グルーエンがマコトここに立っときちゆうたのね、ミックが通る時(一緒の)写真撮っちゃるっち。ぼくがこうやって(煙草ふかしながら)じーっとしてたら、ミックが来た時にバチッと撮ってくれた。でもぼくの頭の中ではその日がずっといい想い出で、もし話しかけてたら自慢話にもなるし、ミックと握手したぜっとか、それもすてきかもしらんけれど、あれは、ミュージシャンシップ、音楽好きなもんのルールやったろうなっち、今でも思ってる。ぼくはあん時、ニューヨークの底力を見たと思った。音楽が根づいとる。大騒ぎ全然せんし、音楽のゆったりしたフンイキこわさん。ローウェル・ファルソンが小さなクラブでやるのを、ミック・ジャガーが聴きに来とる、あの瞬間ってのはすごいな、って思った。

Makoto Ayukawa@(聞き手&構成/岡本おさみ、吉田妃呂)
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