IGGY POP


 IGGY POP/イギー・ポップ

 この人の音楽ってのはすごくインパクトあって、月並やけども、パンクのゴッド・ファーザー。体現してる、形にした一番最初の人でしょうね。ロックやらブルースやらの持ってるエネルギーの、ピークになった時どういう型になって、どういうアクションやるかっちゅうのを全部ひとつの型にしてしまった。カッコよさのエッセンスをすごい上手に出す作曲をするし、いいギタリストと組んで思い切りのいいレコードを69年から出した人で、69年の「ノー・ファン」っちゅうのと70年に出した「1970」ちゅうタイトルの2曲は、78,79年頃にイギリスのパンク・バンド、ダムドがカバーしたり、いろんなリメイク、カバーでパンクの人たちがよくやってたけども。ぼくの3人目の子供のちえちゃん(知慧子)が生まれる前の日に、サンプラザ(中野サンプラザ)に観に行ったのが、イギー・ポップを観た最初なんです。だからあれは1983年。

 その時イギー・ポップは、すごいイカレたステージやってぼくは度肝抜かれた。最高と思った。まわりの人は最低っち、あん時の評判ものすごく悪かったけども、ぼくにとっては一番いい時観たみたいに見解がすごく違うとった。ぼくの見解のほうが当たっとったと思うんやけど、イギー・ポップの音楽ちゅうののありのままが出とった。その日どうするかを決める。ステージにでて決める。眼の前にマイクがあったらマイクつかんで歌う。どっか投げてしまう。別に捜さん。ないならないで何かやる。あわててローディーがマイクを持ってくる、あたりまえみたいにマイクをつかんでやる。メガネをふざけてかけてくる。眼にじゃまんなる、ポーンと投げる。まだ歩き始めた子供、ダダっ子が眼にふれたらそれつかむ、飽きれば棄てる。イギー・ポップのいちばんイカレた時の真髄みたいな、這いたくなれば這って、踊りたくなったらねじれ踊りしてみたり。ぼくは、イギーの気持がようわかったけれど、客席もなんも関係ないところでやるちゅうか……。

 あの頃は私生活もワイルドやったらしいけど、4年後に日本青年館でコンサート観たあとで会った時はものすごいジェントルマンで、ドラッグをやめたとか、生活をきれいにしたとか、まじめなこと言いよったけど、すごく迎えいれてくれて、自分の話もしよるけど、ぼくの話も聞いてくれて、インタビューで気持ちがよかったっちゅうのは、ウィルコ・ジョンソンとイギー・ポップとパティ・スミスとこのレニイ・ケイ。みんな年もぼくより1個上で、その3人とはほんと特別な出会いの後の、ぼくが慕っていく気持ちが続いている。

 (青年館のコンサートは)すごく強力でバンドとして練りあげて、よかった。どうや、よかったやろ、ちゅうて言いよったけど、その前(6年前)に来た時はバンドがひどかった。俺のバンドじゃなかった。で、FMファンのためのインタビューやったけど、他にプライベートな話がいくつもあって、おんなじだおんなじだっちゅう話がでたんです。たとえばローリング・ストーンズ聴きだして、ブルースをディグしだしたちって。おお俺もおなじだ。リンク・レイっちゅうギタリストがぼくのアイドルなんやけどちゅうと、おお、リンク・レイ、やあぁちゅうて。こん時、ホントいい時期すごせた。

 次の年('88)ぼくらがアメリカにレコーディングに行った時に、イギー・ポップに連絡とれなかったんですけども、アップタウンのドラムス(DRUMS)でライブをやった日に、ボブが(ボブ・グルーエン・カメラマン)、客席にイギー・ポップが来てるぜ、っちゅうて、嘘やろう、ちゅうて皆んなびっくりしたら、(ライブが終わってから)イギーはいつもの調子で、「新聞見とったら、お前達が載っとるから驚いた、驚いて来たよ」ちゅうて、楽屋に来てくれたんです。ドラムスでやった日には固かったんです。あとでテープ聴いたら演奏は悪くない、アンコールが5分ぐらいも続いとったけど、ぼくら、こんなでアンコールやったら笑われるっちその日は感じた。でも気分の問題で、俺たちアメリカまで来てやりよる、すごいぜっち単純にのぼりあがればいいんじゃろうけれど、シリアスに、まじめにやっとったし。(笑)

 イギー・ポップは、励ましてくれてね。ぼくの腹をドンとたたいて、ギター、腹にくるぜくるぜっちゅうて。明日はシー・ビー・ジー・ビー(CBGB)やから、これはうまくやれるよ。自分たちはレコーディング、明日カッティングでマスタリングに行かないかんから、顔だせんけん、ごめんなっちわざわざ言い訳までして。ドレス・ルーム(楽屋)にその日は、関係ない日本人まで入ってきたりしてごった返してる中で、イギー・ポップはサインしてとか、写真とらしてとかにも、全員にやさしゅう受け答えして、だいぶ長いことおって、彼は帰っていったけど、日本人以上に義理のある奴ちゅうか、男気のある奴ちゅうか、ぼくらによくしてくれた。ものすごい恩を感じましたね、その時に。イギー・ポップはレコードのファンでもあるけれども、それとは別のところで人間として大切な友人、友達になってくれた人。

  Makoto Ayukawa (聞き手&構成/岡本おさみ、吉田妃呂)


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